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【炭化ニュースレター】 from 未来炭化ユニット No. 3 (2023.12.19)

炭化やバイオ炭、未来炭化ユニット(製炭炉)にご関心を寄せて下さっているみなさま

こんにちは!

農業系廃棄物の処理をしながら、気候変動対策の切り札になる「炭化(バイオ炭)」への関心と取り組みが世界的に広がっています。この内外の動きを関心のある方々にお届けしたい!と始めた炭化ニュースレターの第3号です。

11月に開催し好評をいただいた炭化セミナー、次回開催日が決まりました! ご関心ある方、ぜひご参加下さい。

2024年2月19日(月)~21日(水)開催:

炭材の準備から炭出しまで~製炭の実務を体験、炭化の温暖化対策としての可能性を知る3日間コース

※このニュースレターの最後に、前回のようすや参加者の声などを掲載していますので、ご覧下さい。

さて、今回のニュースレターでは、炭化をめぐる世界の動向から4つのニュースをお届けします!

(1)Carbon Streaming社、マイクロソフト社にバイオ炭による炭素除去クレジットを提供

(2)コーヒーかすのバイオ炭がコンクリートの性能を強化

(3)オハイオ州立大学:気候変動対策に「バイオ炭」の農業利用を求めて

(4)作物残渣由来のバイオ炭による気候変動対策の可能性を前進させる研究発表

(3)はバイオ炭がメタンや一酸化二窒素の削減にも役立つという研究、(4)はバイオ炭のCO2貯留の世界全体でのポテンシャルや、とくに可能性の大きい国はどこか、などについての研究です。

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(1)Carbon Streaming社、マイクロソフト社にバイオ炭による炭素除去クレジットを提供

カナダのCarbon Streaming社は2023年9月20日、米バージニア州ウェーバリーの「Waverly Biocharプロジェクト」による炭素除去クレジットをマイクロソフト社に提供することを発表しました。Carbon Streaming社は、信頼性の高い炭素クレジットのプロジェクト拡大を目的としたストリーミング取引(将来の生産を約束し、資金を調達する取引)の先駆者です。Waverly Biocharプロジェクトは、マイクロソフト社のカーボンネガティブ目標に対して、年間最大1万トンのCO2除去クレジットを供給する見込みです。

バイオ炭の土壌への埋設は、何世紀にもわたって炭素を貯留できる方法の一つです。地球温暖化を逆転させる100の方策を検証した「プロジェクト・ドローダウン」によると、バイオ炭は2050年までに1.36~3ギガトンの炭素を隔離できる規模になる可能性があります。これは、カナダの2021年の炭素排出量の2~4.5年分に匹敵します。

ギガトン級の規模を実現するには、需要と供給の両方を構築する必要があり、企業は、バイオ炭のプロジェクトによる炭素除去クレジットのオフテイク(長期供給)契約を結ぶことによって、バイオ炭産業の成長を支援することができます。Waverly Biocharプロジェクトの一環としてバイオ炭生産設備が建設され、そこで生まれるCO2除去は認証されており、マイクロソフト社は、その除去に対するオフテイク契約を通して、重要な役割を果たしています。

Carbon Streaming社の営業担当副社長のOliver Forsterは、「当社では、バイオ炭は、ネットゼロのコミットメントを掲げる企業にとって、ほかの自然を基盤とする技術的な炭素除去ソリューションとともに、パズルの極めて重要なピースの一つだと考えています。この10年間、企業のコミットメントに対して比較的コスト効率の良い炭素除去を拡大し、供給しているバイオ炭の能力は、卓越した特性です」と述べています。

<参照情報>

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(2)コーヒーかすのバイオ炭がコンクリートの性能を強化

オーストラリア・RMIT大学のラジーブ・ロイチャンド博士は2023年8月23日、同大学の研究チームが、350℃の温度で酸素を使用しない低エネルギープロセスを用いて、廃棄物のコーヒーかすをバイオ炭に変えることで、コンクリートの性能を30%強化する技術を開発したと発表しました。

有機廃棄物の処分によって、気候変動の原因となるメタンや二酸化炭素などの温室効果ガスが大量に排出されるため、環境へ悪影響が生じています。オーストラリアではコーヒーかすの廃棄物が毎年7,500万キログラム発生しており、そのほとんどが埋め立て処分されています。世界全体では、年間100億キログラムのコーヒーかすが発生しています。

RMITの技術者によるこの研究は『Journal of Cleaner Production』誌に掲載され、廃棄されたコーヒーかすがコンクリートの性能強化に利用できることを初めて証明しました。

建設業界が廃棄物のリサイクルを支援

研究に関わった工学部の学生は「コンクリート業界は、コーヒーかすなどの有機廃棄物のリサイクル推進に大きく貢献できる可能性を秘めています。私たちの研究はまだ初期段階ですが、今回の刺激的な発見は、埋め立てられる有機廃棄物の量を大幅に削減する革新的な方法です」と語っています。

貴重な天然資源の保護

筆頭著者で研究チームのリーダーであるジー・リー教授によれば、このコーヒーバイオ炭は、コンクリートを作る際に使用される砂の一部に取って代わることができるということです。

「建設業界の急成長する需要に応えるため、世界中で天然砂の採取が続けられており、世界の建設プロジェクトでは毎年500億トンの天然砂が使用されています。資源の有限性と砂の採掘が環境に与える影響を考えると、砂の持続可能な供給を続けるには重大かつ長期的な課題があります。循環型経済のアプローチによって、有機廃棄物の埋め立てを避け、砂などの天然資源を適切に保護することができます」とリー教授は言っています。

共同研究者のモハマド・サベリアン博士は「建設業界は持続可能性を推進する代替原料を追求する必要があります。私たちの研究チームは、木材バイオ炭、食品廃棄物バイオ炭、農業廃棄物バイオ炭、都市ごみバイオ炭など、さまざまな有機廃棄物からコンクリート用途に高度に最適化されたバイオ炭を開発することについて、豊富な経験を積んできました」と述べました。

次のステップ

研究チームは、実用的な実施戦略を開発し、実地試験に向けて尽力する予定で、研究の発展のため様々な産業との協働にも意欲を示しています。

<参照情報>

Coffee offers performance boost for concrete

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(3)オハイオ州立大学:気候変動対策に「バイオ炭」の農業利用を求めて

バイオ炭が、農業利用が可能で気候変動緩和に役立つ重要なツールになり得ることが、”Journal of Environmental Quality“に2023年3月11日に掲載された新たなレビュー論文によって示されました。

有機物を低炭素状態で加熱し製造するバイオ炭は、木炭のような多孔質物質で、土壌改良剤や炭素隔離剤として長い間作物生産に活用されてきましたが、最近になって、その特異な物理的構造と農業や環境面での様々な利点から、研究者たちの間でこの技術への関心が再び高まってきています。

研究者らは、バイオ炭の農業利用が温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)、メタン(CH4)、二酸化炭素(CO2)の排出に与える影響を調べるために世界200か所以上で行われた現地調査をレビューしました。

その結果、土壌中のバイオ炭の量が地域の温室効果ガスの排出量に異なる影響を及ぼしていることが確認されました。影響は、減少、増加、変化なしと様々で、農業用地にバイオ炭が施用されていることで、大気中のN2Oが約18%、CH4が約3%減少していることがわかりました。

一方、CO2に関しては1.9%の増加が確認されました。バイオ炭単体の使用では効果がみられなかったものの、バイオ炭と窒素肥料の併用により、CO2、CH4、N2Oの排出はそれぞれ観測した61%、64%、84%で減少し、バイオ炭とその他の土壌改良材との併用では、同様にそれぞれ78%、92%、85%で減少していたことが確認されました。

こうした結果から、本研究の主執筆者でありオハイオ州立大学園芸作物学部研究員でもあるRaj Shrestha氏は、「炭素の排出源を減らし吸収源を増やせば農業生態系のネガティブ・エミッションを実現できる」と述べ、「有機廃棄物を炭化し長期的な土壌炭素プールを増やすこと」がこれを可能にするとしています。

現状、作物残渣が畑に残された状態では、分解過程において残渣内の炭素の10~20%しか土壌内で再利用されません。しかし、同じ量の残渣をバイオ炭に換えて畑に施用することで残渣内の炭素の約50%を安定した形態で貯留することができるとしています。

土壌に入れたバイオ炭(バイオ炭に含まれた炭素)は、どこでも数百年から数千年持続する可能性があるので、ネガティブ・エミッションの達成と1.5度抑制のために、バイオ炭は現在提案できるベスト・マネジメント・プラクティスのひとつであるとしています。

研究によれば、2011年から2020年の間に世界の温室効果ガスの排出量はCO2が約5.6%、CH4が約4.2%、そしてN2Oが約2.7%増加しており、そのうちの約16%は農業に起因するとしています。こうしたレベルはすでに気候システムに不可逆的な変化をもたらしていますが、Raj Shrestha氏は、農業・林業部門からの排出を抑えることで、将来の損害を遅らせることが可能であると述べています。

ただ、バイオ炭がネガティブ・エミッション技術としての潜在的な可能性を持ち、最近ではバイオ炭に関連する研究が増加しているにもかかわらず、農家の人々にこれを施用してもらうことが難しいとも語っており、広範に使用できるような商業化がされておらず宣伝もあまり行われていないことが一因としています。

農家の人々や農業関連ビジネスに、バイオ炭の技術や利点についてより科学に基づいた実用的な情報を提供するために、多くの議員が、様々な土壌タイプや環境条件におけるバイオ炭の有効性の調査を目的とした政策を制定しています。より多くの農家によるバイオ炭の早期採用を可能にするためにバイオ炭への信頼を向上させることが同レビューの主要目標であるため、Raj Shrestha氏もこの目的を共有しています。

<参考情報>

Researchers want to use ‘biochar’ to combat climate change

Biochar as a negative emission technology: A synthesis of field research on greenhouse gas emissions

S.4895 - Biochar Research Network Act of 2022

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(4)作物残渣由来のバイオ炭による気候変動対策の可能性を前進させる研究発表

バイオ炭を気候変動対策として広く普及させるための、業界をリードする新しいデータセットが開発されました。これは2023年10月13日に学術誌『GCB Bioenergy』に発表された、スウェーデン農業科学大学やザ・ネイチャー・コンサーバンシー(自然保護団体)などの共同研究による研究論文によって発表されました。

バイオ炭は、作物残渣から作られる炭化バイオマスの一種で、昔から土壌の健全性向上や植物の生長促進を可能にするとして農業の現場で使用されてきましたが、CO2を取り除くための有望な解決策であることも研究によってわかっています。

ただ、バイオ炭に関してはこれまで、認識不足やデータギャップ、技術的なハードル、市場の障壁、リスクと認識されているもの、インフラ不足などにより、その可能性が未開発であると研究者は述べています。

このたびの共同研究によって、高解像度で空間的に明示的な世界の作物残渣に関する包括的なデータセットが開発されました。これにより、世界全体で年間約24億トンの作物残渣が発生していることが示されました。

これらの残渣がすべてバイオ炭の生産に活用された場合、理論的には年間最大10億トンの炭素貯留が可能になるとしており、その量は世界の作物生産による全炭素排出量に匹敵するとしています。しかし、持続可能な残渣の収穫や家畜利用との競合を考慮すると、世界のバイオ炭生産の可能性は年間5.1億トンとなり、100年後の隔離の可能性は年間3.6億トンになるとしています。

バイオ炭の耐久性は地域によって異なり、初期の炭素量が100年後に残る割合は、温暖な気候では60%から氷結土ではほぼ100%に及ぶとしています。

同研究ではまた、作物残渣由来のバイオ炭で現在の排出量の5分の1以上を隔離する可能性のある12の国々に注目しており、その可能性が最も大きい国として、ブータン(68%)とインド(53%)を挙げています。

「今回の新たな分析は、自然気候ソリューションとしてのバイオ炭の壁(経済的に持続可能なバイオ炭製品の開発など)をすべて解決するものではないが、作物残渣を活用した持続可能なバイオ炭の生産が局所的に行える場所について、さらに深い知見を与えてくれる。これは、現在作物残渣が焼却などにより廃棄されていて、呼吸器系疾患のリスクを高める可能性のある場所では特に重要である」と、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーの農業・食料システムのシニアサイエンティストで、同論文の共著者であるStephen Woodは述べています。

また、主執筆者の一人であるDominic Woolf氏は、「我々は、化石燃料の使用を急激かつ根本的に削減しても、気候変動による人類や生態系への重大な損害を回避するに十分ではない未曽有の時代に入っている。過剰に排出されたCO2の除去も必要だ。それを大規模に、土地を奪い合うこともなく可能にする数少ない方法のひとつが、作物残渣からのバイオ炭の生産である」と述べています。

著者らは、同研究で開発された作物残渣の発生とバイオ炭としての炭素貯留ポテンシャルを示す高解像度マップが、科学界と農業界に貴重な知見を提供し、バイオ炭の生産に関連する意思決定と投資の支えとなることを期待するとしています。

<参考資料>

Charcoal for Climate Action? New Study Advances Potential of Biochar from Crop Residues as a Climate Solution

Potential for biochar carbon sequestration from crop residues: A global spatially explicit assessment

~~~~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

次回の炭化セミナーのご案内です。

2024年2月19日(月)~21日(水)開催:

炭材の準備から炭出しまで~製炭の実務を体験、炭化の温暖化対策としての可能性を知る3日間コース

<本セミナーに参加する効果>

・炭材の準備から火入れ、製炭炉の温度の管理、窯止め、炭出しまで、実際の製炭プロセスを体験いただくことができます。

・さまざまな炭材で製炭の試験を重ねてきた講師から、具体的なノウハウや注意事項を詳しく聞くことができます。

・製炭や導入に関する疑問点を製炭作業中、随時質問していただくことができます。

・製炭炉の導入を検討されている方、製炭の可能性についてより広く深く知りたい方にお薦めです。

<こんな方におすすめします>

・バイオマス(植物性)の廃棄物の処理費を削減したい方

・処理に伴うCO2を削減したい方

・「炭化とは何か」を知りたい方、学びたい方

・実際に炭化に取り組みたいけど、何から始めたらいいかわからないという方

・製炭炉の導入を検討されている方

・カーボン・クレジットの創出・入手を検討している方

<前回11月開催時のようす>

初日は、午前中の2時間、講師 枝廣淳子より炭化に関する総合的なレクチャーとして、炭化の基礎的な情報や国内外の動向、カーボン・クレジットについてなど、たっぷりとお伝えしました。

午後は、未来炭化ユニットのある製炭施設(笹尻エコビレッジ)に移動し、 講師 光村智弘より、3種類の製炭炉と硝煙装置についての解説を行いました。夜の懇親会は炭を利用してのBBQ! 炭の燃料活用を楽しみながら体感していただきました。

2日目~3日目は、製炭の実務を体験。通常だとゴミとして扱われてしまう地域のお困り材(剪定枝や不要となる植物残さ等)を製炭炉に入れて火を入れます。温度調整を行いながら、約8時間程かけて製炭し、一晩冷まして炭が完成しました。合間にはチッパーを利用しながら、木材の加工も体験していただきました。

3日間参加いただくことで、炭化の手法を一通り体験でき、「密閉式製炭炉による製炭について理解ができた」と言っていただける機会となりました。

こちらからセミナーのようすを写真でも見ていただけます。

<前回11月開催時の参加者の声より>

・炭の利用価値について多くの可能性を知ることができました。また、製炭の今日的な意義や世界の炭化動向バイオ炭の最善の動向を知ることができたことが良かったです。

・炭化の手順を最初から最後まで一通り体験できたことで、密閉式製炭ユニットの設備についてや、製炭実務に関して理解することができました。

・セミナーに参加したことでよりバイオ炭に関して意義のある取り組みだなと感じました。取り組みについては木材等を炭にして二酸化炭素を固定し地中に戻すというシンプルなものですが、森林が二酸化炭素を吸収することで大気中の二酸化炭素を減らすという話はよく聞くものの、それを再び大気に出さないためにはという議論が日本でそれほど注目を集めていないように感じます。それが単純に知らないだけ、または興味関心が低いのか、費用や技術的な問題からの諦めなのか、それともこれから徐々に関心が高まっていく段階なのか、そこが不思議であり、個人的には興味が湧きました。

また、未来炭化ユニットに関しては、従来の炭焼きに要した3日4日という日数を、1日2日で比較的経験の浅い人間でも炭を作ることが可能ということで、とても面白い取り組みだと思います。

※炭化セミナーは、初日(レクチャーと概要体験)だけ参加したい、という方もご参加いただけます。全日程難しい方も柔軟に対応させていただけますので、ご相談下さい。お待ちしています。

炭化をめぐるさまざまな情報や取り組みが世界から集まってきています。また次号でもお伝えしますので、どうぞお楽しみに!

未来炭化ユニット・枝廣淳子

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