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米イリノイ大学:リンの流出を防ぐ「デザイナーズ・バイオ炭」の開発




「過剰なリンによる下流水域の汚染を防ぐだけでなく、スローリリース肥料(少しずつ長時間にわたって効果を発揮する肥料)として経済的に農地の養分を再利用できたらどうだろう?」


この課題に取り組むべく、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校は、この種の取り組みとしては初の実地試験を行い、2024年11月4日、それが可能でなおかつ経済的であることが示されたと発表しました。


イリノイ大学農業・生物工学部で博士課程を修了し同研究論文の著者でもあるHongxu Zhou氏によると、農地の排水管に溶け出したリンを捕集し除去する仕組みはこれまで開発されてきたものの、従来のリン吸着剤では非効率であったり、産業廃棄物のため容易に廃棄できなかったりという課題がありました。そこで、環境に優しく利用しやすい吸着剤を開発するようになったと言います。


研究では、製材工場のおがくずと浄水場で発生した石灰スラッジ(廃棄物)が用いられました。これら2つの材料を混ぜていくつかのペレット(球形)をつくり、低炭素状態でゆっくりと燃焼した「デザイナーズ・バイオ炭」を創りました。このペレット状のデザイナーズ・バイオ炭(以下ペレット)が、石灰スラッジやバイオ炭のみと比べて、リンの吸着力がかなり高いことを示したとしています。


そして重要なこととして、このペレットは、捕集可能な限りのリンを吸着した後、農地に散布することができ、吸着した養分が時間をかけて徐々に農地に放出されるとしています。


試験が行われた場所は、トウモロコシ畑のつづくアメリカ中西部イリノイ州のフルトン郡で、地下排水管の通る実際に農業が行われている作物畑です。研究チームはここで2年間にわたりリンの除去をモニタリングしました。


作物畑の端の地下排水管に、ペレットで満たしたリン除去装置が設置されました。1年目は2~3cmのペレットを、2年目は1cmのものと入れ替えました。どちらのサイズもリンを除去しましたが、1cmの方の除去率は38~41%、大きい方では1.3~12%という結果で、1cmの方がはるかに良い結果でした。


小さい方が除去率の高いことは、過去のラボテストの結果から想定内だったとしています。より小さい方がリンとペレットの接触時間が増えるからです。ラボテストではパウダー状のデザイナーズ・バイオ炭を使用することで非常に効率的でしたが、実際の現場では容易に流されてしまうため、現場で確実に機能させるには球状にしなければならなかったとしています。


このペレットが実際の環境で効果があることが示された後、研究チームは技術経済分析およびライフサイクル分析を実施し、農家の経済的負担の詳細や、仕組み全体の持続可能性を評価しました。


ペレットの生産コストの見積もりは1tあたり413ドルとなり、粒状活性炭(800~2,500ドル/1t)などの代替品の市場価格の半分以下でした。またこの仕組みでリンを除去する総費用として、リン1kgの除去に対し平均359ドルと算出しました。インフレの影響やペレットの交換頻度によってコストは変動するものの、2年毎の交換が最も費用対効果が高くなるようだとしています。


ライフサイクル分析の結果では、使用済みペレットを作物畑に戻し、リンやその他の流入物も除去することも含めて、この仕組みによってリン1kgの除去で12~200kgの二酸化炭素相当が削減できることが示されたとしています。


Hongxu Zhou氏は、この仕組みで得られるメリットは、栄養素の損失削減や炭素隔離にとどまらず、エネルギー生産、富栄養化の抑制、土壌改善も含まれると述べています。


この研究論文は、水管理などに関する国際学術誌『Water Research』に掲載されています(論文名:“Exploring the engineering-scale potential of designer biochar pellets for phosphorus loss reduction from tile-drained agroecosystems”)。


<参照情報>

Scientists tackle farm nutrient pollution with sustainable, affordable designer biochar pellets

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